■ 「家飲み」激増で、居酒屋業態はすべてダメ?
昨年夏にアサヒグループホールディングスが実施した、「家飲み」に関する意識調査によれば、5人中4人が週2回以上「家飲み」をしているということが明らかになっています。ジャンルもビール以外に第3のビールから缶チューハイまで多岐にわたっています。家飲みの理由として「外で飲むよりもリラックスできる」や「家計に優しい」といった点が挙げられていました。実際、市場動向もたいへん好調です。サントリーの調査によれば、アルコールのRTD(Ready to Drink)市場、すなわち缶系のアルコールの市場は、毎年3~5%の成長率で伸びており、6年連続過去最高を記録している活況ぶり。 一方、居酒屋市場に目を向ければ苦戦しているチェーンも少なくありません。今年5月、和民などを展開する居酒屋大手チェーンのワタミが、2015年3月期連結決算で126億円の最終赤字を発表しました。前期の49億円からさらに赤字幅が拡大した格好です。売り上げ低迷に伴い、国内100店舗を閉鎖した2015年3月期に続き、2016年3月期も85店舗を追加閉鎖する計画も発表しています。
こうした話から、「日本人の飲酒のライフスタイルは居酒屋などの外飲みから、気軽に飲めて節約もできる家飲みにシフトしており、“結果として”居酒屋などのチェーン店は苦戦、さらに昨今の政府による税制改革も家飲み傾向を見越したものになっている」と思う人も多いかもしれません。
確かにPOSデータを見てみても、缶ビール、缶チューハイが売れていることは明らかですし、居酒屋の業績データからは苦戦するチェーン店も多いことが見て取れるはずです。しかし、おのおのの事実は単に関連し合っているだけかもしれず、本当に原因と結果の関係になっているかは、注意深く考察する必要があるのです。
ビッグデータの時代が来たことで、膨大な情報を取得し、即座につなぎ合わせて、そこから意味を読み解くことができるようになりました。
だからこそ今、単に関連している事象、つまり相関関係を、原因と結果の関係、つまり因果関係だと勝手に結び付ける落とし穴にはまらないよう、一層留意しなければなりません。
そのための方法として、今、「行動観察」にあらためて注目が集まっています。なぜならば「行動観察」は、因果関係を事実からとらえるうえで強力な武器だからです。
そこで本稿ではビッグデータ時代の行動観察についてご説明いたします。
■ 「吉吞み」を観察する
行動観察を理解するには、まず実際に行動観察をフィールドワークで行ってみるのがいいと思います。私が実際に行った例をご説明します。
「この居酒屋、吉野家の新業態らしいけれど、うまくいくだろうか? 観察しながら飲んでみよう」
2014年7月、都内品川区の西五反田1丁目交差点近くに、吉野家の居酒屋新業態「吉呑み」ができたことを聞きつけ、会社のスタッフ2人とともに飲みに行きました。この店は「吉呑み」3店目の実験店舗といいます。
昼間は通常の牛丼店として営業し、1階は牛丼店のまま、2階だけ夕方から“チョイ飲み店”に切り替わります。吉野家で提供している牛丼はもちろん、生ビールや角ハイボール、焼酎のほか、まぐろの刺身や、牛煮込みなども300円台で楽しめる手頃な価格が売りのようです。
時刻は19時すぎ。入店して階段を上がり、到着した2階を見渡すと、すでに20~30歳代前半の男性客が4人席に3グループほどいます。テーブルの上を見ると飲み干したビールジョッキが2、3置いてあり、食べ物の皿はそれほどありません。
そんなふうにひととおり眺めながら、私たち3人は席に着きました。
飲み始めてから1時間ほど経つと店内はほぼ満席になり、だいぶにぎやかになってきました。それぞれのテーブルの上のビールジョッキは、片付けが間に合っていません。
お客さんたちはオペレーションの手際の悪さをあまり気にとめる様子はなく、和気あいあいとした雰囲気で飲んでいます。
隣のグループの話に聞き耳を立ててみると、どうもこの近くで働いており、ちょっと前からこの店の看板が気になっていたそうな。今回、友人とともに初めて来店したようです。
昼間、牛丼店として営業していることもあり、気取った雰囲気のない店内は、仕事の話というより友人との話、愚痴というより趣味の話。そんな雰囲気がお似合いのようです。
■ 行動観察の結果には大ヒットの種がある
私たちは飲みながら、「吉呑み」を以下のように分析しました。
◎22時30分で閉店(When)
◎“家飲み”のような気安い雰囲気(Where)
◎20歳代中心の仕事帰りのお客(Who)
◎高価な食事よりも手頃な食事(What)
◎たくさん飲むより楽しく飲む(How)
実験店舗でオペレーションはぎこちないし、メニュー開発も発展途上であるものの、行動観察からわかる「4W1H」から、私たちは、家飲みのよさが広まったことで、家飲みのようにくつろげてサクッと飲める価値が、家の中にとどまらず外にも広がっていくと予想し、こうしたサクッと家飲みの雰囲気で飲める居酒屋業態はヒットするのではないかと結論づけました。
その予測ですが、間違いではなかったようです。吉野家は4月、夕方からアルコール類を提供する「吉呑み」と「吉呑みチョイ」の店舗を国内全店の約3割に当たる360店舗に拡大すると発表しています。まさに、冒頭で紹介したように、家飲みが拡大していることと居酒屋業態が厳しいということには、必ずしも因果関係はない、ということなのです。
行動観察を活用すれば、データを読み解く先入観を取り除き、当初、想定していない、因果関係に気づくことができます。
今回の例で言えば、「当初、家で飲みたいから家で飲むと考えられているが、実際には、家にいるような感じで手軽にくつろげれば、家で飲むことにはこだわっていないのではないか」と考察することができます。
もちろん、それだけですべてを結論づけることはできませんが、少なくとも分析者の先入観で相関関係の中に原因と結果を見いだすことはとても危険なのです。
■ ビッグデータ時代の行動観察とは
商品や店舗の開発はさまざまな手法で行われていますが、このように行動観察を介した開発によって、大ヒットを生み出すケースが増えてきました。
「行動観察」とはその名のとおり、観察者がフィールド(現場)に入り、そこにいる人たちの行動を観察して分析することを意味します。行動観察自体は異文化などを分析するために2000年以上前から行われているメソッドで、それが1980年代以降、本格的に商品やサービスの開発に応用されるようになったのです。
行動観察の強みは、消費者が説明できない潜在的なニーズを明らかにしてくれる点にあります。
ビッグデータを眺めていても、消費者本人にじかにアクセスしないかぎり、その因果はわかりません。さらにたとえじかにアクセスしたとしても、本人自身が意識していない隠れたニーズを深掘りするのは容易ではありません。
そもそも消費者自身が自覚しているニーズは氷山の一角であり、無自覚で顕在化していないニーズが実は大半を占めています。それら無自覚で顕在化していないニーズを掘り起こすことができたら、これまでにない新たなマーケットを作り出したりすることが可能になります。そこで次回は、行動観察から生まれた大ヒット商品のプロセスを追ってみたいと思います。
from 東洋経済オンライン
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