일본2017. 10. 20. 13:16

僕らが生きているなかで「当たり前」だと思っていることは、案外当たり前ではないことがあります。自分で自分の限界を決めているとき、ありませんか。

■思考の枷を外そう
 世の中には、問題意識はあるけどこれまでまったく進まなかった問題がたくさんあります。待機児童や病児保育の問題が典型的です。
 新聞を読んで「ああこれは問題だ、でも難しいですね」と初めからあきらめてしまう。思考に枷(かせ)をはめているんです。
 でもちょっと問うてみたらいい。「何があればこの問題が解決するの? 何をやればいいの?」と。
 口に出してみれば意外に当たり前のことだったりするんです。「子供が熱を出した。だったら誰かに預かってもらえばいい」というような。「預かる施設がないなら家で面倒見ようよ」とか。ただそれだけです。当たり前のことをやるかやらないか、それだけの違いだと思います。やっちゃえばいい。

■「社会問題」という社会問題はない
 実は、「社会問題」という社会問題はありません。一つ一つは「Aさんの障害児の問題」「Bさんの子供が保育園に入れない問題」なんです。それぞれの解決策はあるはずだから考えればいい。そしてそれを制度化していく。そうすれば自然に大きな「社会問題」につながっていくんです。
 そうやってできたものの一つが、我々が始めた「おうち保育園」です。これはもともと、うちの社員が子供を産んで育児休暇を取って、さあ戻ってこようというときに待機児童になってしまって戻れない…というところから始まったんです。
 最初はこの子のために保育園を作ろうかな、と思っていたのですが、いろいろルールがあって難しかった。保育園って子供が20人以上いないと認可されないんですね。20人以上となるとかなり広い部屋が必要ですが、そうなると都市部ではなかなか作れない。20人という数に合理的な理由があるのかなと思っていろんな人に聞いたら、人間工学的にはじき出された最適解ではなく、ただ「決まってるから」と言われてしまった。

■目の前の問題解決が大きな問題につながっていく
 ちょうどその頃、民主党の松井孝治さんという方と知り合いになり、相談しました。その直後に鳩山政権ができ、彼は官房副長官になりました。そこで試しに実験でいいから9人の保育園を作らせてほしい、20人という制限がなければマンションや一戸建てを保育園にできるので待機児童問題の突破口になるはずだとプレゼンテーションしたんです。
 実は空き家って全国の住居の16%くらいあって、どこにでもあるんです。待機児童が集中するエリアにある空き家を使えないかと松井さんに伝えたら、厚生労働省につないでくれた。そして厚労省が特別に実験事業を作ってくれて、これを受けて東京都江東区に「おうち保育園しののめ」ができました。
 都市再生機構(UR)の作っていたマンションの一室を使い、定員は9人でした。ところがいざ受け付けを始めると20人以上の申し込みがあった。利用者は、そこが大きい認可園だろうがマンションだろうが気にしない。預けてよさそうな人たちだったら問題ないということなんです。
 この成功事例を、当時内閣府にあった「待機児童ゼロ特命チーム」に持っていきました。そのリーダーが現厚労省事務次官の村木厚子さんでした。
 村木さんは「これいいね」と、すぐに「子ども・子育て新システム」に入れてくれた。そして昨年度の国会で「子ども・子育て支援法」として成立したんです。こうして2014年度から小規模認可保育所として全国でおうち保育園ができるようになりました。
 目の前の社員が抱える「問題」から始まった取り組みが、制度を変え、「待機児童問題」の解消へとつながっていったんです。

■「僕たちこうだよね」からの脱却を
 我々が知らず知らずのうちにはめてしまっている思考の枷は、至る所にあります。
 例えば寄付について。「日本に寄付文化がない」という言葉をよく聞きます。果たして本当でしょうか。実際、東日本大震災のときには赤十字だけで3280億円の寄付が集まりました。寄付文化がないとはどういうデータに基づいているのでしょうか。
 日本にはもともと寄付文化はあったはずなんです。なぜなら日本のお寺には「勧進」という、今でいう寄付の伝統がある。千年近く昔からこの仕組みはあった。いつの時代の日本に、寄付文化がなかったというのでしょうか。僕らがそう思い込み、自分たちを縛っているものっていっぱいあると思います。
 僕らの敵は、僕らのマインドだと思う。「俺たちこうだよね」の「ね」。確かめ合う、あの鎖です。病児保育の問題でも、会ってもいないのに「本当に厚労省がうるさくてね」というけれど、実際に会って話してみると意外にそうでもなかったりする。
「日本は落ち目だ」とか、自分から日本を「ディスる」(「ディスリスペクトする」の意。軽蔑すること)ことがよくありますが、本当ですか? 僕は米国に留学していましたけど、日本はめちゃくちゃいい国ですよ。とにかく、そういうことが多すぎます。本当にそうか試してみようよ、と言いたい。「Just do it」です。

■会社勤めの方がリスクが高い
 起業はリスクが高い、といわれるけど全然そんなことない。会社に勤めなくても生きていけるわけだから、サバイバル能力が高くなるし、むしろリスクは低いと思う。
 就職した先がブラック企業というリスクもある。1つの会社に長くいれば安心かというと、その会社でしか使えないスキルを身につけるのはむしろ怖いことだと思います。外に出ても通用しませんから。会社の寿命なんて35年程度なんだし、会社より自分の方が長く生きることだってある。1つの会社に勤め続ける方がリスクが高い可能性もあると思います。
 公務員が安定しているという人もいますが、じゃあデトロイトに行ってみようよ。いつ日本がデトロイトになるかわからない。
 日本は失敗すると再起しづらい、というのも思い込みだと思います。起業経験のある人は大きな企業の新規事業などで引く手あまたです。僕のベンチャー時代の友人もそうです。ベンチャー企業をつぶしたって、今は大企業のデジタル部門のトップだったりするんです。だから失敗した経験というのは無駄にはならないと思います。

 もちろん反社会的なことでつぶしてはいけない。けれど社会に求められるような生き方をした上での失敗だったら、社会は再びチャンスを与えてくれると思います。

■社会の問題を解決するのは楽しい
 僕が今関わっている病児保育は、本当に課題が山積です。ただ、課題がある限り僕の仕事はあると思っています。
 仮に僕の職業人生が65歳までとすると、あと30年あります。だったら3年に1回くらいソーシャルイノベーションを起こしていれば、10個の社会的課題を解決できる。そう思えばこれからも飽きずに楽しそうな人生になりますよね。
 社会の課題を解決するって本当に楽しいです。多くの人が困っていたこと、できなかったことを自分の努力と発想で何らかの答えを出す。非常にエキサイティングで、しかも感謝までされる。社会問題っていうと重苦しいだけのイメージがありますが、それはイノベーションの種でもあるんです。
 これからの若い人たちが目の前にあるたくさんの小さな問題に気付いて立ち向かっていけば、それは大きな流れになり、世の中はより良くなっていくと思います。社会の問題なんて腐るほどあるから。課題の種は山ほどある。そしてその課題を自分が解決できるなんて、楽しいと思いませんか。

 

 

日本経済新聞

Posted by THOMAS K